9. 何故いまさら部落問題を取り上げて、寝た子を起こすようなことをするのか。

一、この問いを取り上げたねらい
  あらゆる差別の中で最も深刻な差別であり、しかも人為的・社会的に作られた差別が
 部落差別である。そして、「それでも親鸞聖人の教えを受け継ぐもののすがたか」と、
 私たちの宗門の鼎の軽重が問われる重大課題でもある。現在の社会にはさまざまな差別
 が渦巻いており、そのどれもが避けて通れない課題である。部落問題に目を向け、自ら
 の姿勢を問いなおすことから、願うべき「御同朋の社会」を考えてみたい。

二、さまざまな意見──話し合いのヒント
 ア部落差別を知らない人が増えて、もう差別などなくなっていると思う。
 イしかしわが子の結婚となると、こっそり身元調査をするのではないか。
 ウ差別はいけないというが、わざと差別しているわけではない。差別される方に問題
  があるのではないか。
 エそっとしておけば、そのうち消えてゆく。問題にするのは逆効果ではないか。
 オこんな問題を取り上げるのは時代に逆行するのではないか。私は差別などしたことは
  ない。
 ・部落問題といわれてもピンとこない。そんなことは過去のことと思っていた。
 ・昔から差別のなかった時代はないし、今後もないと思う。

三、話し合いを深めるために
  あなた自身も、何かで差別されてはいませんか。差別されたことはありませんか。

〔参考〕

 ○差別は現に生きている。──『高岡教区人権意識調査報告書』参照

 ○差別があるとは、差別する人がいるために差別に苦しむ人がいるという事実を指す。
    ──差別される人に問題があるのではなく、差別する人間に問題がある。故に、差別

    の解消とは、差別者の差別からの解放であり、それによっての被差別者の被差別

    からの解放である。

 ○そっとしておけば消えるのなら、白日にさらせば、なお早く消える道理。
    ──そっとしておいて欲しいのは、差別者も被差別者も同様。差別の現実と向かい合

    うことは、一旦は苦痛を伴うから。長年、肉に食い込んだ足かせをはずす時のよ

    うに。お互いにコンセンサスを築いて、手際よく、サッとはずしたい。

 ○「問題にすることこそ問題だ」という世界宗教者平和会議での、町田全日本仏教会会
  長の発言から、差別法名問題も始まった。被差別者の訴えとしての解放運動を圧殺し
  ようとする差別発言の典型と指摘されたのである。

 ○「差別の現実を問題にすることなく、仏教の平等精神を説くことは、差別である。な
  ぜなら、そのような平等精神とは、差別の現実を黙認する平等精神だからである」と
  は、解放同盟の吉田樹氏の指摘。

  ○差別を容認することは、誰に対しても一子のごとく憐念したもう、平等心、如来の大
   慈悲、本願への反逆であり、浄土を願う道に対する逆行である。
   ──「平等心をうるときを 一子地となづけたり 一子地は仏性なり 安養にいたり
    てさとるべし」『浄土和讃』「諸経讃」
   ──「超日月光この身には 念仏三昧をしへしむ 十方の如来は衆生を一子のごとく
    憐念す」『浄土和讃』「勢至讃」

 ○部落問題は差別の頂点──『真宗再生への願い』

 ○社会問題との取り組みは、阿弥陀如来の誓願の生起した所以をたずねる聞法のいとな
  みである。と同時に如来の願いに応える生きかたをしようとする報恩のいとなみでも
  ある。

 ○おまかせとお蔭さまを問う──現実の問題から目をそむけて心の安らぎを得ようとす
                る悪しき精神主義
   ──「まかせる」は信の和訓であって、信順の意のはず。仏教に随順し、仏意に随順
    し仏願に随順することであろう。「あなたまかせ」「人任せ」とは違うはず。
    「身を粉にしても骨をくだきても」と宗祖は言われた。
   ──「おかげさま」は自己中心な思い上がりを戒める効果をもつ考え方ではあるが、
    現状肯定的で、問題を直視することを忘れさせやすい。特に自分が加害者である
    ことを見えなくさせる発想である点に注意する必要がある。
 ○部落差別の解消へ向けて
   ──軒下に積もって春になっても残った雪のかたまりは、突っ付けば突っ付くほど早
    く溶ける。(世間注視の)風に当て、(学問的分析の)光に当てれば当てるほど
    早く消える。そっとしておこうというのは、保存しようとすること。消えるはず
    がないと、絶望的決めつけをするのは、自ら差別を容認する態度。

 ○身元調べの思想
   ──差別される側に加わりたくないという、差別意識から差別を再生産し、差別を広
    める思想。

 〇御同朋の社会実現のために
   ──あらゆる差別解消への行動指針──

 一、差別解消はまず私から(自己を見る)
  1,相手の立場に立っていない私を見つめ直そう
  2,「あんなふうでなくてよかった」とよろこぶ心を見直そう
  3,「~のくせに」と人をおとしめ、傷つけあうのはよそう
 二、あらゆる差別に敏感な心を持とう(歴史と社会に聞く)
  1,差別の事実に学び、人々の痛みの声を聞こう
  2,差別と人権の歴史に関する学びを深めよう
  3,広く人権に関わる情報に注目しよう
 三、差別を差別と見抜き、誤りを指摘できる私になろう
  1,家庭の中での差別的な発言や行動を直視し、注意しあう態度を身につけよう
  2,被差別部落をいやしめる言動を見逃さず、勇気を持って注意しよう
  3,身元調査に対しては断固として断ろう。「身元調査は差別だ」との常識を築こう
  4,「障害」者・外国人差別をはじめ、あらゆる差別的言動に対してその誤りを指摘
    しよう