新案「食前・食後のことば」2000年2月起草 (岡西)
現行の「食前・食後のことば」
食前「み仏とみなさまのおかげにより、このご馳走をめぐまれました」「深くご恩をよろこび、ありがたくいただきます」
食後「尊いおめぐみにより、おいしくいただきました」「おかげでご馳走さまでした」
〔参考〕旧浄土真宗本願寺派「対食偈」
(食前のことば)
吾今幸に佛祖の加護と衆生の恩恵とによりこの美しき食を饗く。
つつしみて食の来由を尋ねて味の濃淡を問はじ。
つつしみて食の功徳を念じて品の多少を擇ばじ。「戴きます」
(食後のことば)
吾今この美しき食を終りて心ゆたかに力身に充つ。
願はくはこの心身を捧げておのが業にいそしみ、誓って四恩に酬ひ奉らん。「ご馳走さま」
善導『往生礼讃偈 中夜偈』
「寂滅の楽を欲求して、當に沙門の法を学ぶべし。衣食は身命を支え、精麁、衆に隨いて得」
法霖の『対食偈』
「粒々皆是れ檀信、滴々悉く是れ檀波。士農に非ず工商に非ず、勢力無く産業無し。福田衣の力に非ざる自りは、安くんぞ此の飯食を得ること有らん。慎んで味の濃淡を問うこと莫かれ、品の多少を問うこと莫かれ。
此れは是れ命を保つ薬餌、飢と渇とを癒せば則ち足る。若し不足の想念を起こせば、化して鐡丸銅汁となるべし。若し食の来由を知らざれば、重きを負う牛馬に堕する如し。語に寄りて諸の行者に勧む、食時には須べからく此の言を作すべし。願わくは此の飯食の力を以て、長く我が色相身を養い、上は法門の干城と為り、下は苦海の津筏と為らん。並びに諸の衆生を教化して、共に安楽国に往生せんと」
検討の要点
一、簡明で覚えやすいこと
二、仏教徒としての精神が明確なこと
・食べられない人の存在に心を配ること
・食物である前に、いのちある生き物であったということに思いを致すこと
・先人の労苦と世人の尽力の上に生きる身であることを忘れないこと
・食べることは基本的に命を養い繋ぐ不可欠の営みであることを確認すること
・報恩の思い、念仏者の願いを新たにすること
・仏は造物主ではない。手前勝手な恩寵主義に陥って衆生を見失わないこと
・暖衣飽食を省みて、慙愧を生ずべきこと
三、仏教徒としての万人へのメッセージであること
従来の「食前・食後のことば」の反省点
・わかりやすいわりには覚えにくい
・内容が仏教的薫りが乏しく、感銘がない
・自分さえよければ感謝の閉鎖的利己主義に聞こえる
・食べ物の「いのち」が見えない
・現状肯定のみが感ぜられる
・真俗二諦・皇民思想を引きずっている
〔参考〕旧仏教讃歌「四恩の歌」
一、天照らす我が大君の 民草をいつくしみます 御惠の底ひも知らず
うたはばや吾等の幸を 盡さばや我がすめらぎに
二、たらちねの幾年かけて おほしたて養ひましし みなさけのかぎりも知らず
うたはばや吾等の幸を 盡さばや我が父母に
三、諸人の一つこころに 助けあひ睦み合う世に 常春の花もかをらむ
うたはばや吾等の幸を 盡さばや我が同胞に
四、とこしへに闇路を照らす 大智慧の法の燈 はてもなく世にぞかがやく
うたはばや吾等の幸を 盡さばや我が御佛に
新案「食前・食後の言葉」
食前のことば
先導者 如来のみ光のもと、生きとし生けるものの恩恵と先人の労苦によって、
この食物を得ました。身を養わせて頂く尊さを思い、有り難く頂きます。
先導者 「み仏の光のもとに」
一同 「いただきます」
食後のことば
先導者 他の生き物のいのちを頂いて生きる身の重さを忘れず、
あらゆるいのちに光があるように念じつつ、精一杯に努めます。
先導者 「衆生の恵みによって」
一同 「ごちそうさまでした」